東京--(BUSINESS WIRE)--(ビジネスワイヤ) -- 東芝は、Bluetooth® Low Energyなどの低消費電力無線通信向けの高周波発振回路を開発しました。スイッチング形式の高周波発振回路において、その電源電圧を動的制御することによりトランジスタの閾値電圧よりも低い電源電圧での発振動作を可能とし、従来発振回路と比較して1/5~1/10程度の極低消費電力化を実現しました。本成果は、イタリアにおいて開催される半導体国際会議ESSCIRCにて、9月24日(現地時間)に発表しました。
近年、スポーツやフィットネス、医療、腕時計といった分野へと無線通信の利用が広がっています。これらのアプリケーションでは、コイン電池やエナジーハーベストといった小容量の電源を用いて長時間動作することが可能な無線通信ICが要求されるため、無線通信ICの極低消費電力化への期待が高まっています。無線通信ICとその個別要素回路の消費電力を抑制する技術が活発に研究されています。
無線通信ICの要素回路の中でも、高周波発振回路は基準となる高周波信号を生成する回路です。一般的に、発振回路に求められる重要な性能のひとつである雑音特性と消費電力にはトレード・オフの関係があるため、発振回路の消費電力の削減は困難です。そのため、高周波発振回路の低雑音化、低消費電力化に関する技術は現在まで盛んに研究・発表されています。低消費電力化に関しては、電流の削減を中心とした低消費電力化が進められてきていますが、消費電力は電流と電圧の積で決まるため、徹底的に消費電力を小さくするためには電源電圧も低電圧化することが必要となります。
近年では、新しい動作モードを有する高周波発振回路の構成が提案されており、中でも、製造プロセスの微細化によりトランジスタをスイッチング動作させるD級発振回路が実現できるようになりました。この発振回路は、低い電源電圧においても優れた雑音特性が得られるという特徴を有しますが、その消費電力を極限まで抑制するためには、電源電圧を可能な限り低くすることが必要となります。
そこで当社は、スイッチング動作するD級発振回路において、その電源電圧を動的に制御することにより、トランジスタの閾値電圧よりも低い電源電圧での発振動作を可能とし、発振回路の極低消費電力化を実現しました。動的制御には発振回路の電源供給に用いられるレギュレータ回路を利用し、発振回路起動時には発振動作を開始させるために高い電源電圧を発振器に供給し、発振動作開始後にトランジスタの閾値電圧よりも低い電源電圧に制御を行います。D級発振回路は電源電圧の3倍程度の大きな出力振幅が得られるという特徴を有するため、発振動作開始後には閾値電圧よりも低い電源電圧においても発振動作を維持することができ、これにより発振回路動作時の極低消費電力化を実現しました。最先端プロセスである28nm
CMOSプロセスを用いてチップの試作を行い、低消費電力無線回路に要求される雑音性能を満たしつつ、消費電力171uWという極めて低い消費電力での発振動作が得られました。
また、回路がオフの時のリーク電流低減も重要となるため、本試作ではトランジスタの閾値電圧の高い(LP)プロセスを用いています。提案する動的制御により、閾値電圧以下の電源電圧での発振動作が可能となるため、リーク電流の抑制と低消費電力化の両立を可能としました。さらに、低電源電圧での動作が可能となるため、DC/DCコンバータやエナジーハーベストといった電源回路と組み合わせた場合に、DC/DCコンバータ入力の低電流化、ハーベスタからの直接電源供給といった無線通信IC全体の効率改善にも有効な技術になります。
本発振回路は、微細化製造プロセスの進展に適しており、極めて低消費電力での発振動作が可能です。本発振回路に加え、他の要素回路、無線システム全体での極低消費電力化を進め、3年後の極低消費電力無線ICの実現を目指していきます。
* Bluetoothは、その商標権者が所有しており、東芝はライセンスに基づき使用しています。